概要

社会的背景・国際的背景

 熊本県立美術館の永青文庫常設展示の好評、新聞やテレビ等各種メディアでの永青文庫資料の取り上げ数の増加といった事実により明らかなように、熊本地域の歴史文化への社会的関心は、近年非常に高まっている。これに加えて、熊本城をはじめとする文化財が熊本地震で被災したことによって、熊本の歴史文化への関心が全国的に一層の高まりを見せている。さらに、文化財の復旧に際しては歴史資料(古文書等)上の多様なデータが必要とされることになる。こうした社会的状況をうけて、細川家・熊本藩関係資料の大半を管理している熊本大学には、文化庁、熊本県の文化行政担当部局や地域文化関係諸団体から、地域文化創造事業(永青文庫資料群の国指定実現をも含む)及び地域文化財復旧事業への参画が強く要請されている。本学はこれに組織的に対応する必要がある。

 国際的にも、平成27年度に中国・安徽大学(国家教育部人文社会科学重点研究基地)との大学間国際交流協定が締結され、すでに平成28年5月には安徽大学にて学長も同席した国際シンポジウムを開催している。永青文庫研究の成果を報告し、中国歴史社会研究との比較検討を行い、今後の継続的な開催を確認している。

 なお、当然のことながら国内学界においても熊本藩関係歴史資料への関心は高く、本センター主催の熊本藩研究のシンポジウムや論文集には全国の研究者が参画している。

 以上のことから、社会連携活動と国際的研究活動を機動的かつ継続的に実施し、地域社会からの期待に応えつつ研究成果を国内外に発信していくための組織の拡充・整備が必要である。

必要性・緊急性

 「熊本大学寄託永青文庫資料」や「熊本大学附属図書館所蔵松井家文書」をはじめとする熊本藩関係資料群は、政治、経済、行政、法制、教育、社会運動、思想、建築、芸術文化に至るまでの、人間活動のほぼ全域にかかわる約58,000点の歴史資料等からなるものであり、人文社会科学系における研究拠点の整備を進める上での核として、本資料群を分析し活用に供するセンターの機能の充実が、必要かつ緊急性を帯びていることは明らかである。

 さらに熊本地震以後、とりわけ重要となるのが地域貢献活動である。熊本城をはじめとする熊本地震被災文化財の復旧・保全に必要な歴史情報の提供、文化財復旧・保全事業への市民レベルでの理解促進への貢献、自治体や地元企業と連携した展覧会・セミナー等による研究成果の地域社会への還元等は、地域社会・諸団体が本センターに強く期待するところであり、これに機動的・継続的に応えていくことが喫緊の課題となっている。

センターの概要・特色

(1) センターの業務
本センターは、次に掲げる業務を行う。
  1. 永青文庫史資料をはじめとする熊本藩関係資料の総合的研究に関すること
  2. 永青文庫史資料をはじめとする熊本藩関係資料による地域文化研究に関すること
  3. 永青文庫史資料をはじめとする熊本藩関係資料による文化創造事業の実施に関すること
  4. 永青文庫史資料をはじめとする熊本藩関係資料の研究に関する文化行政機関等との連携、及び支援に関すること。
  5. その他センターの目的を達成するために必要な事項
(2) 期待される効果
  1. 永青文庫資料を活用した人文社会科学研究の拠点としての熊本大学の存在を国内外にアピールし、優秀な人材の確保と特色ある教育・研究拠点への発展が可能となる。
  2. 共同研究を発展させ、国際的な研究の中に位置付けることで、人文社会科学系における国際先端研究機構整備の核を形成することができる。
  3. 文化行政諸機関との連携事業を通じて近世熊本藩地域文化研究の成果を社会に還元し、かつ永青文庫資料群の国指定の前提となる基礎研究を推進することで、地域文化振興へのより積極的な貢献が可能となる。
  4. 学生・大学院生を現物資料解析作業に従事させることで、資料学に立脚した力量ある若手研究者及び文化行政担当者が育成・輩出される。
(3) 他学部・他機関との連携等
 永青文庫資料や松井家文書を管理する附属図書館、歴史資料の展示施設・組織としての五高記念館、また埋蔵文化財調査センター、文学部等との密接な連携のもとで事業を推進する。
なお、特に文化事業については、熊本県教育庁教育総務局文化課、熊本県立美術館、熊本県文化協会等と連携して展開する。
(4)研究実績
 本センターが計画する研究事業、文化事業の前提となる文学部附属永青文庫研究センターの実績には、以下のものがある。
主な研究実績
  1. 文学部附属永青文庫研究センター編『永青文庫叢書 細川家文書 中世編』(吉川弘文館、平成22年)
  2. 文学部附属永青文庫研究センター編『永青文庫叢書 細川家文書 絵図・地図・指図編Ⅰ』(吉川弘文館、平成23年)
  3. 文学部附属永青文庫研究センター編『永青文庫叢書 細川家文書 近世初期編』(吉川弘文館、平成24年)
  4. 文学部附属永青文庫研究センター編『永青文庫叢書 細川家文書 絵図・地図・指図編Ⅱ』(吉川弘文館、平成25年)
  5. 文学部附属永青文庫研究センター編『永青文庫叢書 細川家文書 故実・武芸編』(吉川弘文館、平成26年)
  6. 稲葉継陽・今村直樹編『日本近世の領国地域社会-熊本藩政の成立・改革・展開-』(吉川弘文館、平成27年)
  7. 文学部附属永青文庫研究センター編『熊本大学寄託永青文庫資料 総目録』全4冊(平成27年)
主な文化事業実績
  1. 永青文庫細川家文書266通の国重要文化財指定(平成25年6月)
  2. 「熊本大学附属図書館貴重資料展」(毎年11月に附属図書館と共催、永青文庫セミナー同時開催)
  3. 「細川コレクション「信長からの手紙」展」(平成26年)を永青文庫・熊本県立美術館と共催。永青文庫の信長発給文書59通を一挙公開し、永青文庫研究センターにおける信長発給文書に関する研究成果を総括し反映させた。本展覧会は平成27年1月~3月に東京・永青文庫でも開催された。
  4. 「くりぃむしちゅーの歴史新発見 信長59通の手紙を解読せよ」(日本テレビ系全国放送、平成27年2月)永青文庫研究センターにおける研究活動と成果を再現ドラマや展覧会場での解説によって発信した番組。制作に全面協力した。
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